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1. シクラメン文花器
エミール・ガレ

1. シクラメン文花器
エミール・ガレ
ガレは、1900年のパリ万国博覧会の準備段階で、国からある部門の副委員長に指名されましたが、これを辞退しています。
それは、国選による無監査の出品者としてではなく、コンクールの参加者として自らが追求してきた芸術を世界に問い、より大きな成功を得るための決断でした。
そんな彼が、この万博のために開発したガラス技法のひとつが、「ガラスの象嵌技法」、通称マルケトリです。
この技法は、まだ熱いガラスの表面に、あらかじめ用意しておいた色ガラスの破片を貼付けて、加熱しながら素地にならし込むもので、木工家具にも取り組んでいたガレが、木の象嵌技法にヒントを得て着想したとも言われています。
本作は、器の胴部にシクラメンの花や葉、茎をマルケトリ技法で表現した作品です。
今日残された写真から、これとよく似た花器が、1900年のパリ万博で、「孤独の中の休息」と題されたガレによる展示ケースに並んでいたことが分かっています。

2. バザンクール草原・秋
カミーユ・ピサロ

2. バザンクール草原・秋
カミーユ・ピサロ
この作品は印象派の中心的な画家であるカミーユ・ピサロの油彩画です。
ピサロは、ポントワーズやモンフーコーといったフランスの小さな田舎町を転々としていましたが、1884年にエプト川のほとりにあるエラニー村へと移り、以降、この地を拠点として制作に励みます。
本作は、その対岸に広がるバザンクール村の風景です。
画面の下部に干し草を集める農婦の姿が小さく描かれ、遠くには家々の点在するのどかな田園が広がります。
画家は、この村の風景を、季節や時間、天候の異なる様々な条件のもとで描いています。
本作では、色づいた木々の葉が秋の気配を伝えています。
ピサロは、エラニー村へ移住後、若い画家たちの影響を受けて点描画法に取り組みました。
しかし、絶え間なく変化する自然やそこから受けた感動を表現しきれないと悟り、やがて印象派の技法へと回帰していきます。
画面に重ねられた細かな筆の跡は、その名残といえるでしょう。

3. 緑の詩
東山魁夷

3. 緑の詩
東山魁夷
池畔の森が横長の画面に描かれています。
森は、鏡のような水面にも映し出され、白馬を緑で包み込んでいます。
東山魁夷は、木々の芽がいっせいに吹きだす季節に「森や林は緑のオンパレード」となり、そこに「白馬が一頭、静かに左から右へと歩き出し」ていると述べ、その馬が「何かを訴えているようだった」としました。
白馬は、1972年の「白い馬の見える風景」シリーズ以来、10年ぶりの登場で、作品を幻想的で動きのある表現にさせる特別なモチーフでありました。
それもそのはずで、本作は、東京の帝国劇場の緞帳用原画として描かれたものであり、幕が上がるのを待つ観客たちの目を楽しませる構図でもありました。
その色調も、糸で織りあげることを前提に諧調をやや抑え気味にしています。なお、その緞帳は2012年頃まで使われていたようです。

4. 雪中松文花器
エミール・ガレ

4. 雪中松文花器
エミール・ガレ
ガレは、しばしば、古今の詩文から引用した言葉を装飾に取り入れました。
言葉によって、隠されたテーマや自らの心情を暗示し、作品をいっそう象徴性豊かなものにしようとしたのです。
その背景には、工芸品を絵画や彫刻のような芸術の域へと高めたいと願うガレの強い意志がありました。
本作は、黄緑色に発色したウラン・ガラスに白色のガラスを被せて、壺型に成型した花器です。
素地に白いガラスの粉末を仕込んで、雪が舞う様子を表すとともに、表面には、モチーフの輪郭をエッチングで彫り込んで、松の実や枝葉をエナメル彩により描いています。
雪と松という題材や繊細な雪の表現には、日本画等の影響が見て取れます。
胴に刻まれた詩文は、ガレと同時代の詩人シュリ・プリュドムによる「舞踏会の女王」の一節で、「冬の涙/不幸な人々の涙のように」というもの。
降りしきる雪を涙に例えたその言葉は、寒さや雪の重みに耐える松の声なき声を伝えているようです。

5. 木の実文花瓶
ドーム

5. 木の実文花瓶
ドーム
ドームは、1900年のパリ万国博覧会のために、同じナンシーで活動していた彫刻家エルネスト・ビュシエールの陶器のデザインをガラスに応用した作品を制作しています。
植物の姿を器の形に取り入れたビュシエールのデザインは、ドームのフォルムに対する考え方に大きな影響を与えることになりました。
こうした背景には、すでに花や蕾の姿を作品そのものの形として取り入れていたガレに対抗する意味もあったのかもしれません。
やがて、ドームは、昆虫や植物の姿をアップリケによる立体的な装飾や器の形体として表現するようになっていきます。
本作では、セイヨウカリンと思われる木の枝葉や実の姿が立体的に表現されています。
ガラスを熔着して作られた葉が青葉であるのに対して、器の表面に彫り出された葉は赤や黄色に色づいています。
秋に葉が紅葉し、実が熟していく、木々の移ろいを表現しようとしたのでしょう。
そこにドームの日本的な感性を見ることができます。

6. 風
加山又造

6. 風
加山又造
本作は、1982年の《音》と同様の構図で、ヒマラヤン猫が描かれた作品であります。
タイトルから考えますと、わずかな風が立ったので、耳とヒゲに神経を集中させ、前足と尻尾を緊張させるポーズをとっているように見えます。
柔らかな長い毛でわかりにくいのですが、背中も幾分緊張しているように見えます。
加山又造が猫を主題とした動物画を始めたのは1960年代に入ってからで、最初は短い毛のシャムを神経質なタッチで描いていました。
それが1970年代後半からは、ヒマラヤンに変わり、刺々しい印象も和らいできたように思われます。
そのなかにあっても、目はブルーに描かれ続け、獲物を狙うような澄みきった眼差しも変わらない鋭さをもち合わせています。

7. 音
加山又造

7. 音
加山又造
本作は、1982年の《凝》と同様の構図で、ヒマラヤン猫が描かれた作品であります。
加山又造は、その初期に毛の短いシャムを描き、1970年代後半から毛の長いヒマラヤンを題材としてきました。
ここでは、全体に栗毛色ながら、顔や足、尻尾が黒っぽいこげ茶色のヒマラヤンで、音に反応したかのように、後を向いて耳をそばたて、尻尾も少し立てています。
加山は、猫の毛を一本一本丁寧に描くことによって、その存在をリアルなものにしていきますが、栗毛色と思われた毛を近づいて見ると金泥を使っていることが分かります。
暗い背景に一匹の猫というシンプルな構図ですが、金泥の使用により、そこに華美にならない程度の装飾性を加えているのです。

8. 青いチュチュの踊り子
アンリ・マティス

8. 青いチュチュの踊り子
アンリ・マティス
青いチュチュをつけたダンサーがベンチに座りポーズを取っています。
太い黒の線で捉えられたその姿は、上半身に比べてクロスした脚が逞しく描かれており、力強い印象を与えています。
隣には紫と黄色の花束を入れた花瓶が置かれ、画面に彩を添えています。
70歳を越えたマティスは、1941年、病気のために大きな手術を受けます。
術後に後遺症が残り、多くの時間をベッドで過ごすようになりますが、制作意欲は衰えることがありませんでした。
この時期、体力のいる油彩画ではなく、ベッドの上で描ける木炭や鉛筆を使ったデッサンに集中して取り組んでいます。
そうした影響もあって、油彩画でも、次第に描き込む要素が絞られ、線描やスピード感のある筆触が目立つようになります。
手術の翌年に制作された本作では、堂々とした女性の姿とは対照的に、リズムよく描かれたチュチュの質感や勢いのある筆触が、画面に軽快さと躍動感を与えています。

9. エミール・ガレの庭
エミール・ガレ

9. エミール・ガレの庭
エミール・ガレ
ガレが植物や昆虫をモチーフとする独自の表現を築いた背景には、彼の自然に対する強い関心がありました。
フランスのナンシーの自宅に設けた広大な庭には、温室や湿地、野菜園や果樹園があり、日本の品種を含む3000種類近い植物が植えられていたと言われています。
そこに集まった自然を観察しながら、作品の着想を得るとともに、その神秘の解明にも力を注いだのです。
当館の「エミール・ガレの庭」は、そんなガレの作品に登場する草花を中心に、ここ広島の植生に合わせて構成された庭園です。
庭園内には、池やパーゴラ、ボードウォークなどが設けられていて、春には、ケマンソウやニオイアラセイトウが花を咲かせ、夏には、コウホネやスイレンの花が池に浮かびます。
秋にはイヌサフランが再び姿を現し、冬にはスイセンが水辺を彩ります。
ときには、蝶やトンボなどの昆虫たちにも出会えるでしょう。
ガレの作品とともに彼が愛した自然を心ゆくまでお楽しみください。
